朝日新聞のコミュニケーション誌「朝日サリー」  

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vol.56           会津山都そばかんのの十割そば
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お店DATE
■会津山都そば かんの 
平上荒川字砂屋戸1-45       電話/23-6863 
営業時間/11:00〜14:00
(夜は完全予約制・前日までの申し込みで4名以上の1組のみ)
定休日/月曜日           駐車場/P10台
●もりそば…700円
●重ねもりそば…1,200円
●山都そば膳…1,800円

夫婦二人三脚で生み出す
温かい人柄を映すやさしい味
■厳選した食材から生まれる十割そば 
 平の街を見下ろす高台にたたずむ一軒家。昼時には、そば通が足繁く通う隠れた名店である。ご主人は今年71歳を迎える菅野薫さん。 毎朝7時、決まった時間にそばを打つところから一日が始まる。天気や気温、湿気の微妙な変化をみながら水加減やこね方で調節し、その日使う分だけのそばを愛情を込めて仕上げる。そばは、会津山都町の契約農家から厳選されたそば粉を仕入れ、つなぎを一切使わない十割そば。噛みしめるとそばの香りと味が口の中に広がる。ダシは、北海道産の天然こんぶと土佐の一等検のかつお節のみを使用。6ヵ月間寝かせたかえしと合わせ、そばを引き立てる香り高いつゆとなる。一年の中でも最高のそばが味わえる新そばの季節を迎え、一層忙しくなる店を奥さんの智子さんと二人三脚で切り盛りしている。
 菅野さんは昭和12年東京生まれ。
戦火の中、昭和16年に家族と共に
いわきへ疎開し、生活の場所を移した。兄の材木店の手伝いをしながら商売のためにと夜学に通い、市内スーパーマーケットに入社。配達業務から始まり、勤勉さを買われ店長に昇格。新事業にも携わり、東京といわきの往復生活が続いた。取締役にも昇格し、会社の全盛期を支え、平成9年、36年勤めあげ定年を迎えた。
↑天ぷら、手作りこんにゃくの「とろりこん」、小鉢、香の物、デザートが付いた「飯豊そば膳(1,500円)」
■定年後に見つけた蕎麦打ちという楽しみ
 今まで忙しく動き回っていただけに、定年後の生活に不安を感じていた。そんな彼に娘さんが「そばでも打ってみたら?」と勧めてくれた。彼は元来、大のそば好きで出張に出かける度においしいそば屋を探しては食べ歩いていたのだ。その言葉がきっかけとなりそば教室に通うことに。しかし、教室は月に一度だけ。物足りなさを感じていた時に、知り合いから山都でそばを打つから食べに来ない
かと誘われた。素人が打つそばな
んてと半信半疑で食べたところ、こんなにおいしいものは今まで食べたことがないという程の感動を覚えた。「彼に作れるのだから、自分もやってみたい!」と思い、その勢いでそば打ちの道具一式を買ってしまった。それが第2のきっかけとなり、それからそばに没頭する。毎日そばを打っては試食し、時には近所や知人に配った。「こんなにそばばかり作ってどうするの!?」と奥さんが言っても耳を貸さず、一日も欠かすことなく研究をした。気が付いたら一年間で2700食ものそばを打っていた。
↑そば粉に少量のお湯を加えよくすり合わせたら、体重をかけてこねる
↑乾きが早いそばを手早く伸ばし、一定のリズムでトントンと均一に刻んでいく
■お客さんに支えられ、歩み始めた第2の人生
 このそばをもっと多くの人に食べてもらいたいと考えていたところ、友人が「こんなにおいしいのだから店を始めてみたら?」と背中を押してくれた。奥さんは猛反対。しかし、友人の一言が第3のきっかけとなり、平成 年、自宅の1階で店を開くことに。店を開けるのは昼の3時間だけ。無理をしない、あくまでも定年後の新しい道として、楽しみながらそば屋を営んでいる。
 彼のそばは、口コミで広がり、今では全国からお客さんが来るようになった。どんなに忙しくても、食べ終わった頃に笑顔でテーブルの横につき、「いかがでしたか?」と話しかけてくれる。そんな温かい接客に「また食べにこよう」と思わずにいられない。店のファンになったお客さんたちが「蕎麦の会」と称して、新そばの季節や年末などに会合を開くようにもなった。 そして、店を開くことに反対していた奥さんも今では大事な仕事のパートナーに。天ぷらや小鉢などの料理は奥さんが担当している。中でも、サクッと揚がった天ぷらは絶品だ。彼女の作る料理はどれも温かみがあり、優しい味がする。
 当初、店は5年続けたら閉めようと考えていた。しかし、お客さんがそれを許してくれなかった。「私も皆さんの気持ちに応えたい。だから、体の続くかぎりこの店を続けていこうと思うんです」と笑顔で語ってくれた。〈かんの〉は今年9年目を迎える。
 この店の魅力は、そばもさることながら、真心のこもったもてなしをしてくれる、主人の人柄にあるのかもしれない。この店のファンは、主人のファンでもある。そして取材を終えた今、〈かんの〉の温かさに触れた私も、その一人として加わった。
↑「おじいさん、おばあさん」と呼び合う、仲むつまじいご夫婦の菅野薫さんと奥さんの智子さん

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