朝日新聞のコミュニケーション誌「朝日サリー」  

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vol.82
ひとくちの「お好み焼き」
お店DATA
■お好み焼き ひとくち
住所/平中神谷字六本榎16-9 
電話/0246-34-6521
営業時間/平日/12:00〜14:00、17:00〜23:00、土曜・日、祝日/12:00〜23:00
定休日/不定休
【MENU】
●チーズもち天…………850円
●味噌チーズもんじゃ…700円
●焼き肉サラダ…………680円

夫婦二人三脚で27年
お好み焼き専門店の先駆けとして
■姉からの誘いを受けてお好み焼き店で修行
 鉄板の上でジューッと音をたてながら焼きあがるお好み焼き。ソースの香りに包まれたアツアツを口に運べば、表面はカリっと、中の生地はふんわり軽い。6号国道から旧道に入った静かな住宅地に佇む〈ひとくち〉は、夫婦で切り盛りするアットホームな店。
 「おいしく焼くポイントは生地を鉄板に流したら平らに伸ばさず、じっくり待つことだけです」。そう笑顔で話すのはマスターの吉田忠義さん(57歳)。昭和27年、いわき市四倉町で4人兄弟の長男として生まれた。小名浜水産高校ではラグビー部に所属。卒業後の就職先もラグビーを続けられる環境を第一に考え、東京の三菱自動車に就職し、実業団ラグビー部で活躍していた。しかし、サラリーマン生活は肌に合わず3年半で退社。同時期、オイルショックにぶつかり、再就職先は思うように決まらなかった。その頃、神奈川県の小田原市でお好み焼き店を経営する姉から連絡が入った。「仕事決まらないのなら、うちに来ない?」。姉からの誘いを受け、店を手伝うようになり、気が付けば5年も店に立っていた。「自分には組織で働くよりも、お客さんの評価がダイレクトに伝わる飲食店が向いている」そう確信を持った彼は独立を目指した。 
↑1日10kg以上使うキャベツは余分な水分を出さないためにミキサーではなく、包丁で切る
■不毛な時代を乗り越え田町から郊外へ移転
 昭和54年にいわきへ戻り約2年間、洋食店に勤務。ようやく空き店舗が見つかり、昭和57年10月に〈お好み焼き・ひとくち〉を平・田町にオープンさせた。4人掛けのテーブル3つ、カウンター5席の小さな店。しかし客足は思うように伸びず、仕込みの材料を廃棄する日々が続いた。当時のいわきではお好み焼きは祭りの屋台で食べる感覚のもので、自分で鉄板で焼くスタイルが浸透していなかった。客には混ぜ方からヘラの返し方、ソースの塗り方まで細かく説明する必要があった。しかも、温厚な人柄とはうらはらに、体格が良く坊主頭にヒゲを生やした忠義さんの外見。「怖そうなマスター」というイメージを払拭させるため、精一杯の笑顔とサービスで接客した。そんな努力の甲斐あってか、4〜5年が経つ頃には徐々に客が増えてきた。
 32歳の時、店の近くのスーパーに勤務し、お客として度々来店していた良江さん(当時20歳)と結婚。持ち前の明るさでテキパキ働く良江さんに接客は全て任せ、料理に専念できることができ、店はいつも活気で溢れるようになった。田町で17年目を迎えた頃には、店も手狭になってきた。「お客さんにも迷惑がかかる。思い切って郊外に移転しよう」。
 平成12年、平中神谷に自宅を兼ねた店舗をオープン。以前の店では若者や会社帰りのサラリーマンがほとんどだったが、全フロアを座敷にしたため、小さな子ども連れの家族も増えた。また、ランチを始めたことで主婦や年配の方も気軽に利用できるようになったという。
↑ミックス、鉄板焼、焼そば、サラダ、デザート、ドリンクがついた「ランチセット(980円)」
↑全席座敷で、テーブルは7つ。古民家の柱を取り入れた落ち着いた雰囲気
■おいしさの秘訣はこだわりの生地にあり
 〈ひとくち〉のお好み焼きは見た目も美しい。生地の上には桜エビ、ニンジン、シイタケ、紫キャベツ、紅生姜、天かすなどが色とりどりに盛り付けされていて、混ぜるのがもったいないくらいだ。そして、旨さの秘訣は昔から変わらない生地にある。小麦粉にかつおダシ、牛乳、山芋、塩を入れて伸ばすのだが、この時、季節によって水の量を調整しているという。「特別な材料は何ひとつ使っていないんです。でも、いつ来てもサックリ、ふわっとした状態で食べてもらえるように、生地作りにはこだわっています」。
 店にはお好み焼き以外にも、もんじゃ焼きや鉄板焼きメニューもある。もんじゃ焼きの中でも一番人気は「みそチーズもんじゃ(700円)」。ホワイトソースのようなマイルドな味わいで、チーズがとろけたところを、すかさずヘラですくって食べるのが楽しい。
 取材中、夫妻がポツリと言った言葉がとても印象的だった。「長く店をやっていればいい時もあれば悪い時もあります。息子が2人いますが、やりたいって本人から言わない限り、自分から継いで欲しいとは言えないですね」。
 鉄板を囲んで和気あいあいとみんなで楽しく盛り上がれる店。それは吉田さん夫妻が持つ陽気なオーラが漂っているから。これからも夫婦二人三脚、末長く続けていって欲しい。
↑釣りと犬が大好きな忠義さんと気さくで話しやすい良江さん。仲の良いご夫妻

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