朝日新聞のコミュニケーション誌「朝日サリー」  

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vol.85
久つみの「似顔絵どら焼き」
お店DATA
■久つみ(くつみ)
住所/常磐湯本町天王崎84-6
電話/0246-43-7643
営業時間/8:30〜19:00
定休日/無休
【MENU】
●どら焼き(通常サイズ)110円
●元祖温泉まんじゅう……84円
●雨情さん…………………110円
●くるみゆべし……………110円

湯本で100年続く和菓子店
四代目が描くユニークなジャンボどら焼き
■常磐炭鉱の閉山により昭和51年、湯本駅前に移転
 顔ほどの大きさを持つジャンボどら焼き。その上には絵が描かれている。お客が持ち込んだ写真に瓜二つの似顔絵を描き、贈り物として人気を集めている店が〈久つみ〉だ。湯本駅前にあり、陳列スペース1坪という小さな和菓子店。大正2年創業、現在は三代目・九頭見恵友さん(62歳)が店を継ぎ、奥様・淑子さん(62歳)と長男で将来四代目となる友行さん(37歳)の3人で店を切り盛りしている。淑子さんは雨の日も風の日も戸を全開にした店先に座っている。接客はもちろん観光客の道案内や、時には人生相談もしているという湯本の看板おばさんでもある。「九頭見さんとのおしゃべりが楽しくて、つい寄ってしまうんです」と近所に住むお年寄りが嬉しそうに話してくれた。「派手さはないけれど、毎日色んな人との出会いがあるので商いは飽きません」と淑子さん。現在、「童謡のまちづくり市民会議」の会長も務め、忙しい日々を送っている。
 かつて湯本には常磐炭鉱があった。以前店を構えていた上町商店街の近くには炭鉱夫やその家族が暮らす炭鉱住宅があり、メイン通りとして活気を見せていた。しかし、昭和51年、炭鉱の閉山とともに多くの人々が湯本の街を去っていった。当然のことながら、商店の売上げの影響は非常に大きいものだった。そこで、駅前に移転。店名も〈九頭見屋本舗〉から〈久つみ〉と変え、新たなスタートを切った。
↑戦後間もない昭和25年頃。和菓子販売の他に、森永製菓の代理店でもあった
■手作りにこだわり 味への信頼を守りぬく
 恵友さんは高校卒業後、家業を継いだ。上湯長谷町にある小さな作業場で毎日黙々と菓子作りに専念している。先代までは元祖温泉まんじゅうのみだったが、恵友さんが徐々に種類を増やし、今ではかぼちゃ、よもぎなど全6種類となった。また、湯本は野口雨情ゆかりの地。地元の歴史や文化をお菓子を通して伝えられたらと、「雨情さん」も誕生し、今では人気の土産菓子となっている。
 「昔ながらの職人気質の人だから、いい加減なことはできないの。常にお客さんに正直な気持ちで作っています」と淑子さん。以前、旅館や観光施設などにも卸していた時期があった。大型機械を購入し、大量生産をしていたが、4年で止めたという。「馴染みのお客さんに『味が変わりましたね。前のほうが美味しかった』と言われたことがあったんです。その一言で青ざめ、大いに反省しました」と恵友さん。それからは手作りのおいしさを第一に考え、一つひとつ真心を込めて作っている。
↑いつも明るい笑顔で迎えてくれる淑子さん。話上手で立ち寄る人々を和ませる
↑人気のまんじゅう(各84円)。もちもちとした皮の食感が特徴
■家族3人の愛が詰まった似顔絵ジャンボどら焼き
 ジャンボどら焼きは約25年ほど前に誕生した。きっかけは、孫の誕生日にバースデイケーキを贈りたいが、生クリームが苦手なので和菓子で作ってもらえないかという注文から。平成17年には、友行さんが店を手伝うようになり、「美術を活かして何か人を喜ばせることができないだろうか」と考え、「どら焼きに似顔絵を描いたらおもしろいし、喜ばれるのでは?」とお客さんのこの一言にヒントを得た。そして、試行錯誤の上、ハンダゴテで焼き付ける方法を生み出した。熱くなったコテを生地上にあてる角度や時間によって顔の陰影や髪質までもリアルに表現している。
 肝心のどら焼きであるが、皮もアンもすべて手作業によるもの。銅板に水滴を垂らし、水滴が踊って消える程度の温度になったら生地を流し込む。「銅板の温度でどら焼きの出来が決まります」と恵友さん。蓋をして1分間位蒸し焼きにする。特大のヘラを2枚使ってタイミング良くひっくり返す。一度に2個しか焼けない。アンはまんじゅう用とどら焼き用で固さを変えている。よく煮えた小豆に砂糖を加えて、一晩蜜漬けにする。その後、1時間以上しっかりと練り上げ、程よい固さのアンに仕上がる。材料にもこだわりがある。小麦粉は国産100%、アンは北海道十勝産の小豆、砂糖の他に新鮮さを保つ効果があるというトレハロースを使用。保存料や添加物は一切使っていない。
 どこかノスタルジーを感じる〈久つみ〉。昔ながらの製法で手作りにこだわる恵友さん。心を込めて似顔絵を描く友行さん。笑顔で和菓子を橋渡しする淑子さん。あたたかな家族のリレーにより、今日も誰かに幸せを運んでいる。
↑磐城学芸専門学校で美術教諭を担当し、週の半分は家業を手伝う友行さん
↑友行さん直筆の下絵。食べたあとも思い出が残るようにとサービスでもらえる

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