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vol.223 高橋謙一郎さん
PROFILE
たかはしけんいちろう● いわき市生まれ。磐城高校、東京大学法学部卒業後、都内企業で働く。昭和48年、いわきへUターン。地元企業で働いた後、学習塾を開校。塾教師と職人を両立する、忙しい日々を送る。2年前からは〈高橋工房〉の3代目として、絵のぼりとだるま制作に専念している。

「願い」を込める。
守り続けた伝統の品80年の歴史を胸に
■大きくしていく 夢のように少しずつ
平成19年1月1日、元旦。初詣で賑わう平・子鍬倉神社には「いわき福だるま」が並び、高橋謙一郎さんと奥さんの淳子さんが軒先に立っていた。一番大きいだるまは62センチもある「特大」。大きいサイズから手のひらサイズまでを1〜7号、それ以降は、いろはにほへと…と数え、21種のだるまがある。その多さに迷ってしまいそうだが、多くの人が小さいものから1年ずつ順に買うという。「1年頑張って、来年は1つ大きいサイズを買おう」と目標を立てたり、「七転び八起き」にかけ8年かけて8個買い、9年目は再び小さいサイズを買う人もいる。順番や選ぶ基準は様々だが、購入する際、みんなが「願い」を込めるのは一緒だ。「商売繁盛」「子どもの合格祈願のために」「健康祈願」。様々な人が、それぞれの願いを込め、手にする。「お客さんが願いを込めて買ってくれた時に工芸品から縁起物になる。毎年、その瞬間がうれしくてね」と謙一郎さん。
 だるまのモデルは中国で活躍した仏教の僧侶「達磨大師」。一般的なだるまの色、深い赤色は達磨大師が身にまとっていた〈緋の衣〉という色から用いられ、形、彩色、顔の表情は地域によって異なる。謙一郎さんが作る「いわき福だるま」の特徴は、群青色で描かれた輪郭と「福」の文字などに散りばめられた、梨地という金色の粉。この「いわき福だるま」の原型を作り上げたのが初代であり、謙一郎さんの祖父の與平さんである。
↑平・子鍬倉神社にて。謙一郎さんと淳子さんは直接お客さんに会える、だるま市を毎年楽しみにしているそう
■緋の色、群青色、梨地。組み合わされた幸せの色
「絵のぼり」職人に弟子入りし、20歳という若さで独立した初代の與平さん。下書きなしで絵のぼりを仕上げてしまうほどの絵の才能を持っていたという。しかし、節句用の絵のぼりは初夏までの作業。その後、冬にかけて何か作ることはできないか?という思いから始まっただるま作り。様々な地域のだるまを参考に、いわき独特のものを模索し完成させた。緋の色の中に、凛とした群青色が映え、腹部には大きく「福」の文字。それぞれに意味があるという。「いわき福だるま」の象徴ともなっている輪郭の群青色は、いわきの海。その周りの白色は、波を表現している。この輪郭部分で、だるまの良し悪しが変わる。だるま作りの核となり、描けるようになったら一人前とよばれる技。この技は、與平さん他界後も、二代目晃平さん、そして謙一郎さんへと受け継がれた。乾きやすい塗料などが売られている便利な時代だが、昔ながらの製法で何度も何度も塗っては乾かす。こつこつ、ていねいに作り続ける。その、手を抜かない「いわき福だるま」作りが、謙一郎さんが守り続けることであり、当たり前のことだと言う。
↑自然と描いている人に似てくるというだるまの表情。伝統を守り続ける強さと優しさから描けるのだろう。謙一郎さんらしいだるまが仕上がっていく
■守り続けることで伝わる気持ちがある
 会社員として働いていた長男、聡一郎
さんが「手伝うよ」と、仕事を辞めた。晃平さんが病で倒れ、入院した昨年の4 月のことだった。約2500個のだるまを7月から12月の半年で仕上げるためには夫婦2人では間に合わない。しかし、毎年楽しみにしてくれる方のために作らなければ…と思っていた時だっただけに、とても心強い言葉だった。
 仕上げ作業中の息子さんに「まだまだだねぇ」と一言。しかし「小さい頃から職人に囲まれて育ったから筋はいいよ」と照れくさそうに教えてくれた。覚えることが多く、守らなければいけない伝統もある。だからこそ、厳しくなってしまう部分もあるというが、家業を継いでくれたこと、一生懸命この伝統を守ろうとしている姿がうれしかった。そして年末、四代目聡一郎さんが加わった工房では、親子3人で無事だるま作りを終えることができた。このだるまは、2月まで開催される各地のだるま市で販売される。
 自分が作っただるまに、みな願いを込め大切にしてくれる。とても幸せな仕事をしていると思う気持ちと、一切、妥協のできない仕事ということを胸に、一つひとつていねいに作業を繰り返す。その姿に、真の「いわき福だるま」を作れることを誇りとしている”職人魂“を見た。
↑左から聡一郎さん、謙一郎さん、淳子さん。親子3人で工房を守る

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