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vol.236 高橋政博さん
PROFILE
たかはしまさひろ● 1977年、会津若松市生まれ。その後いわきへ移転。福島高専卒業後、千葉の大手企業に就職。半年でいわきへUターンし、地元企業での勤務後、椅子の張替え修業を3年間経て2003年に4POINTを設立。現在二児の父でもある。

古い椅子たちに、新しい生命を吹き込む
■見えない将来に出会いの一歩
 湯本駅から少し離れた住宅街の道添いにある小さなプレハブ小屋。ここが高橋政博さんの作業場だ。
 彼が椅子の張替えという職業に出会ったのは、24歳の時。
地元の高専を卒業し、大手企業に就職したが、自分には合わないと半年で辞表を提出した。次の就職先では経営が傾き2年で辞めることに。定職を持たず、「次こそは自分に合った好きな事を仕事にしよう」とアルバイト生活を送った。頭の中では色々と考えていながらも、明確なビジョンはなく、それをどう形にしていいか分からないまま時間を過ごしていた。そんな時、当時付き合っていた彼女から、叔父さんが椅子の張替えの仕事をしていると聞き、元々インテリアが好きだった彼すぐに会いに行った。「古いものを新しく作り変える」そんな魅力に惹かれ、弟子入りを志願した。
■独り立ちの夢のために、日々勉強
 設計などの知識は多少持っていたが、張替え作業はすべてが初めての事だらけ。椅子の布を剥ぎ、新しい生地の裁断。生地はミシンで縫いあわせるのだが、ミシンもこの時初めて触った。それから、ウレタン(クッションの中身)を作り直し、また元の椅子に貼り込みをする。これらの工程を一つひとつ、師匠の仕事を見ながら覚えていく。中でも、一番初めの工程、布を剥ぐ作業は構造がどんな物なのかを知ること。師匠に「椅子の構造を理解してこそ張替えができるようになる」と言われ、ひたすらそれだけに没頭したこともあった。
 独立を視野に入れていた彼は3年間の修行後、2003年1月に「4point」を設立。社名の由来は、修行時代に何度となく師匠から叩き込まれた「椅子張りには必ず基本の4点がある。どんな形の椅子でもそこをきちんとおさえることで綺麗に仕上げることが出来るんだ。」という言葉から、どんなに時が流れても、初心を忘れず、良い仕事ができるようにという思いを込めてつけた。
 「何かしたいけど、何から始めていいかわからなかった頃の自分。それが今、仕事が趣味と言い切れる程好きな仕事に出会えて本当に幸せを感じているんです。彼女との出会いは運命だったのかもしれないですね。」師匠と巡り合わせてくれた当時の彼女は今、奥さんとして彼を支えている。
↑BEFORE
↑AFTER
■古い椅子を今風にリメイクする
 仕事は、小さなプレハブの中で一人で行う。注文を受けたら椅子の程度を確かめ、お客さんに張替える布を何百種類もある中から選んでもらい、そのイメージに合わせて、良い部分を残しつつ新しさを加える作業を施す。仕事をする時はいつも、新品以上にすることを心掛けてるという彼の手に掛かれば、古びた椅子も、座り心地が良く雰囲気のがらりと変わったオシャレな椅子に生まれ変わる。そして、自分の施した椅子は直接お客さんに渡しに行く。その瞬間が毎回緊張の時。「そこでお客さんの喜ぶ姿が見られたらもう最高です。だからこの仕事は止められない」。
 独立して5年が経ち、今では飲食店や医療関係からも依頼が来るようになった。全国的に有名なカフェの椅子も彼がリメイクを手掛けている。それでも、軌道に乗っているわけではないという。
「今はソファなども驚くほど安く買うことができ、古くなったら新しいものを買い換える使い捨ての時代。椅子の張替えという需要はまだまだ低いんです。」
 新しいものを買うことはちょっと嬉しい。けれど、捨てる前に少し立ち止まって欲しい。
 古くなった椅子も、彼によって新しい生命を吹き込まれ、主人と共に新たな歴史を刻み続けることだって出来る。椅子張り職人の仕事。それは、人にも地球にもやさしい生き方につながる。そんな仕事を誇らしいと思った。

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