朝日新聞のコミュニケーション誌「朝日サリー」  

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vol.259 
いわきおやこ劇場
PROFILE
1988年にスタートした営利を目的としない非営利団体。プロの創造団体を呼んで様々なジャンルの舞台を鑑賞する例会活動と地域の人と手をつないで豊かな子育てをしていく自主活動を2本の柱に、親と子が共に育ち合うことを目的に活動している。
代表 大越三奈子さん

親子の中で育まれる芽を大切に
演劇を通した交流から見守る子育てを
子どもたちの感性を豊かに
磨いていきたい
 暮れも押しせまった12月のある日。会場となったアリオスには、母親の手を引っ張りながら我先にと子どもたちが集まってきた。この日は、いろいろな国の話が繰り広げられる「風の子バザール」の公演。幕が開くと賑やかだった子どもたちは一斉に静まり、身を乗り出して舞台に釘付けとなった。
 「おやこ劇場」は、今から40年程前、福岡で産声を上げた。親と子の対話をもっと持ちたいと願う父母が集まり、子どもの感性を豊かに育てることを目的に演劇の鑑賞が始まった。「子どもたちに質の高い舞台芸術を」という活動は全国へ広がり、いわきでも1年の準備期間を経て1988年にスタート。4〜5名から始まった「いわきおやこ劇場」は20年以上が経ち、現在は、0歳から年配の方まで約500名の会員が参加している。
 鑑賞する演劇の内容は、子どもも大人も交えて投票で決定し、年に4〜5回、プロによる生の舞台や音楽を楽しんでいる。その他にも、クリスマス会やバーベキュー、講演会や絵本の読み聞かせなど、さまざまなイベントを自分達で企画運営し、親子で過ごす時間を大切にしている。 
↑「風の子バザール」の公演の様子。前列に子どもたちが座り、その後ろから父母が見守る形で鑑賞する。舞台上で繰り広げられるお話に子どもも大人も釘付け
おやこ劇場が
大切な居場所となって
 この会の代表を務めるのが入会して20年になる大越三奈子さん。彼女が「おやこ劇場」を知ったのは、幼稚園で配られたチラシからだった。長女が劇を見に行きたいと言い出したものの、幼い子ども2人を連れて夜間に外出することは大変で、入会するまでには時間を要した。しかし、初めて行った劇では、普段騒がしい子どもたちが目を輝かせて舞台を見つめていた。そんな姿に感動し、3人目となる次男はお腹にいる時から劇に触れさせてきた。
 その後、スタッフとして手伝いに加わることとなり、会の運営が母親たちの手によって成り立っていることを知った。いわきおやこ劇場は、6ブロックの地域に分かれ、月に1度ブロック会を開き、会費の納入から活動の企画まで、自分達がやりたいことを話し合い、実行している。また、活動は会費で全てを賄うため、余分な経費を掛けないよう、プロの劇団との交渉から公演当日の運営までを分担して、持ち回りで行っている。
 「年齢もキャリアも違う母親たちが集まって、さまざまな意見を聞いたり、愚痴をこぼしたりしながら、子育ての悩みは誰にでもあるんだって気付いたんです。それからは、子育てに少し余裕をもって臨めるようになったんですよ」。
 会と共に子育ての喜びを分かち合えたからこそ、今度は多くの人にその良さを伝えたいと、子育てを卒業した今でも、現役の子育てとは違った関わり方で会をサポートしている。
↑自主活動で開かれた「流しそうめん」の様子。色々な家族が協力して行われる。家族間の交流にもなり、青空の下で食べて、遊んで、子どもたちは大喜び
たくさんの目が見守る
よってたかって子育て
 おやこ劇場の魅力は、ただ劇を見るだけではなく、親子の時間を共有できるというところにある。普段忙しくすれ違いがちな親子でも、この時だけは同じ舞台を見て、帰り道にお互いの感想を話し合う。それだけでも意味のあることだという。
 公演後には、「面白かった」、「猫が食べられちゃってかわいそうだった」と素直な感想が寄せられ、純粋に劇を楽しんでいる子どもたちの意見が今後の参考にもなっている。しかし、会員数が年々減少していることも事実だ。入会しても、すぐに辞めてしまう人も多いという。
 「今の親御さんは、答えを急いですぐに次のステップを求めがちです。劇を見せたからと言って成績が上がるというわけではありません。子どもの感性はゆっくりと育まれるもの。それでいいと思うんです」。
 大越さん自身も子どもに結果を求め過ぎてしまった時期もあるというが、先輩お母さんが間違いに気付かせてくれた。「子どもが何カ月も前に見た劇で流れた曲を一人で口ずさんでいたんです。それで、あっ、ちゃんと根付いてくれているんだなって思って」。
 会の中では、演劇鑑賞の枠を越えて、たくさんの目が子どもたちの成長を楽しみに見守っている。「よってたかって子育て」と呼ぶみんなで支え合う子育ては、自分一人では気付かないことやわからないことを誰かが教えてくれる。子どもたちにはもちろん、母親たちにも良い影響を与えてくれているのだ。
 「忙しい現代だからこそ、もっともっと親子の時間を大切に過ごしたい」。その想いがこの会の原動力。小さな感動を大切に育くむことが、親子の笑顔の時間につながっていくのだろう。いつか翼を広げて羽ばたいていく子どもたちの姿を想像して…。
↑ブロック会では、母親たちが集まり、例会への準備や自主活動の計画などを立てる。笑い声の耐えない、大切な情報交換の場でもあるそう

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